<代表✕対談>完全予約制だから、
子育てと仕事がうまく噛み合います

家庭に入った女性獣医師の悩みは<キャリアの断絶>。
自分らしく生きたい、働きたいと願っているあなたのために、本当に必要なことは何なのでしょうか?

「いま必要とされている獣医さんのかたち」についてペット予防医療センターの代表・松岡 大輔と、
女性獣医師ネットワーク代表の箱崎 加奈子さんが、とことん語り合いました。

松岡 大輔(まつおか だいすけ)
福岡県出身
製薬会社勤務を経て、動物病院やペットショップ専門の経営コンサルタントとして独立。2011年、(株)Add Petを設立。予防医療に特化したペットショップ内動物病院「ペット予防医療センター」をスタートする。現在、全国40カ所あまりで診療所を運営している。

箱崎 加奈子(はこざき かなこ)
東京都出身
獣医師でありながら、トリマー、動物看護士としての実務経験を持ち、しつけの知識も豊富。正しい医療知識に基づいた情報発信を積極的に行う。「ペットスペース&アニマルクリニックまりも大原店」を東京都世田谷区に、「ペットスペース&アニマルクリニックまりも方南町店」を東京都杉並区に展開している。
出産をきっかけに、ライフワークバランスの実現の難しさに直面。ペット業界で働く女性のための支援活動、コミュニティ運営をスタートさせた。

スタートダッシュで診療所を開院してみたら、獣医さんが足りませんでした(松岡)

臨月なのに後任が決まらない!―思い余って始めたのが女性獣医師ネットワークでした(箱崎)

箱崎:松岡さんが最初の診療所を開かれたのは、いつでした?

松岡:2013年の4月のことです。

箱崎:その直後に一度、お会いしましたよね。

松岡:そうそう、開業半年目ぐらいだったと思います。

箱崎:診療所を10カ所開いたばかり、とおっしゃっていたのを記憶しています。

松岡:スタートダッシュで10カ所ほど一気に開院しました。

箱崎:診療所は増えたけれど、獣医さんが足りていなかった…。

松岡:そうなんです。それで箱崎さんにご相談させていただいたんですよね。箱崎さんはすでに女性獣医師ネットワークをお始めになっていましたね。

箱崎:2011年に立ち上げました。

松岡:その節はありがとうございました。当時から、とてもユニークなネットワークだなと注目していたんです。なぜ、女性獣医師ネットワークをお始めになったんですか?

箱崎:じつはネットワークを立ち上げた11月は、私の出産月。臨月なのに後任の獣医師が見つからなくて切羽詰まっていたんです。

松岡:ご自身で動物病院を開業されていたんですよね?

箱崎:ええ、小さな病院を切り盛りしていました。ただ、産休に入りたくても入れない状況で。お世話になっていたコンサルの方に相談したら、「あなたの悩みを解決してくれるのは、あなたと同じような境遇の人だけですよ」と指摘されて、ママさん獣医師を探すことにしたんです。でも、求人サイトでいくら探してもみつかりません。思い余って自力で人材の掘り起こしを始めることにしました。

松岡:それが「女性獣医師ネットワーク」だった?

箱崎:はい。最初は私と同じ立場の人に声をかけてネット上でグループ化して、そこに求人のお願いを出したら、いろいろな方が手を挙げてくださいました。おかげで無事、産休に入ることができたんです。その後もメンバーが増え続けて2016年に一般社団法人に。現在は400人あまりの方が参加されています。

発病前に病気の芽を見つけることが、ペットのQOL改善に役立つはずです(松岡)

飼い主さんのニーズと「獣医師が考える獣医師像」がズレている!(箱崎)

箱崎:松岡さんがペット予防医療センターを始められたきっかけは?

松岡:きっかけはとても古くて、物心ついた時から犬がいたのが原点でしょうか。父の仕事が動物関係だったので、大学を卒業後、就職したのも動物薬の製薬会社。何の迷いもなくこちらの世界に進んでいった感じです。製薬メーカーでは、途中から動物病院のコンサルティングを担当することになり、全国の病院を訪ね歩く日々が続きました。私が受け持ったのは、おもに開業3年未満の若い病院。院長先生は皆やる気満々なんですけれども、ものすごい借金を背負って開院していらっしゃる。早く経営を安定させるために、飼い主さんをどう集めるかで悩んでいました。一方では、どんどん大きくなっていく既存の大病院もあって、そちらはそちらで膨らみ続けるコストが課題でした。

そんな両極端の動物病院を見ているうちに、飼い主さんとペットにとって本当に必要とされる病院とは何なのだろうか?―ということについて深く考えるようになりました。どんなに高価な検査機器や治療器具を取り揃えてみても、治せる病気と治せない病気がある。できれば病気に罹る前の早い段階で見つけてあげることが、ペットのQOL改善に役に立つんじゃないか―と肌身で感じたんです。

箱崎:同感ですね。じつは私、獣医師免許を取得するより先にトリマーとして働いていたんです。麻布大学に入学後も動物病院などでトリマーの仕事を続けながら勉強していました。トリマー目線で感じたのは、動物病院に来る患者さんの7割は予防措置だな、ということ。私が働いていた病院では病気以前の対応が大半でした。

トリミングに来るお客さんによく相談されたのが、「うちの子○○なんだけど、先生に診てもらったほうがいいかしら?」という質問。獣医さんにちょっと相談したいんだけれども、大したことないのにいろんな検査をされて、結果、高額な支払いになっちゃうんじゃないか…みなさんそんな不安を抱えていらっしゃったんですよね。後に獣医師として動物病院を開業してみたら、やっぱり病気の子は3割程度。7割はそれ以前の措置で済むことに驚きというか既視感がありました。

ところが、獣医師になった途端、健康相談を受けることがパタリとなくなってしまったんです。トリマー時代、あんなに気さくに悩みを打ち明けてくれた飼い主さんたちは、一体どこへ行ってしまったんだろう?―と不思議に思いました。

松岡:「動物病院は病気になってから連れて行くところ」という飼い主さんの意識が強いからですね。病気じゃないのに行く気がしない。

箱崎:獣医師も同じなんです。病気やケガを治すのが自分たちの仕事だと思っている。それはそのとおりなんですが、じつは飼い主さんの多くが求めているのは、病気にならないためのアドバイス。飼い主さんのニーズと獣医師が考える獣医師像がズレているんです。

20分間1コマの完全予約制は、飼い主さんの話をじっくり聞くのに最適です(松岡)

「1次診療」の手前の「0.5次診療」が、じつは求められているんだと思います(箱崎)

松岡:私もニーズのズレを痛感したので、飼い主さんと獣医さんの架け橋になるような仕事をしたいと考えはじめました。製薬会社を辞め、経営コンサルタントとして8年間、新しい動物病院のスタイルを模索することになりました。

とあるペットショップが経営する動物病院の運用を任されて、飼い主さんの側に立った“小さいけれども頼りにされる病院”の形を少しずつ、磨いていったんです。そこで得た知見をもとに自社運営の病院としてスタートしたのが、ペット予防医療センターです。

箱崎:一般の動物病院を「1次診療」とするなら、その手前の「0.5次診療」を中心に据えた病院、ですね。

松岡:はい。主にワンちゃん、ネコちゃんを育て始めたばかりの飼い主さんとしっかりコミュニケーションを取って、飼い方・育て方のノウハウをエデュケートしていく。飼い主さんと獣医師が二人三脚で愛犬・愛猫を育んでいく関係性を作りたいと考えました。

箱崎:同感です。人間なら、病気の手前のちょっとした体の不調は家庭でなんとかします。お腹を下したら一食抜いて様子を見るとか。2日経っても良くならなければ病院へ行くとか。でも、動物の場合、そのアドバイスをしてくれる人が不思議なくらい不在なんです。下痢をしている子を病院に連れて行くと、獣医師は対症療法を行いますけど、次に悪くなったときどうするかの話はちゃんとしてくれなかったりする。

松岡:そこですよね。仔犬・仔猫の新人パパママは、ちょっとした風邪や下痢が心配で心配で仕方ない。でも、動物病院へ行くのは敷居が高くて躊躇してしまう。

箱崎:ネットで調べると、いろんなことが出てきます。でも、ネットに流れている情報は微妙で、誰も中身を担保してくれません。で、困った飼い主さんは、自分に都合の良い情報を無意識のうちに選択してしまう。これが危ないんですよね。「?」の情報を仕入れた結果、迷走する飼い主さんが非常に多いと感じています。

松岡:だからこそ、病気治療の資格者である獣医師が飼い主さんに寄り添って、適切なアドバイスをする必要があるんですよね。私は患者さんが通いやすい場所として、駐車場を完備したショッピングモール内のペットショップを考えました。お買い物のついでに立ち寄れるところに獣医さんがいて、健康やしつけの悩みを気楽に相談できる―そんなロケーションで動物病院をやってみたかったんです。ペット予防医療センターは、このコンセプトに基づいて各地に診療所を開いています。

箱崎:私の病院では飼い主さんの話をよく聞くために、予約制を取っています。ペット予防医療センターも完全予約制ですよね?

松岡:はい。事前に電話またはWEBからご予約いただいています。20分間1コマの完全予約制ですが、この20分間というのが有効で、飼い主さんの話に耳を傾けてアドバイスするのにちょうどいい時間枠なんですね。

箱崎:一般の動物病院の中には、言葉は悪いですが流れ作業で診療して、飼い主さんとの会話は二言三言というところも珍しくないですからね。

松岡:飼い主さんに、いま通っている動物病院について伺うと「待たされる」「終わりの時刻が見えない」「説明が足りない」というのが不満の三拍子なんです。完全予約制+1コマ20分間というシステムの導入で、この点はかなり解消されたと思っています。

ペット予防医療センターの獣医師の4人に1人は、働くお母さんです(松岡)

若い世代の女性獣医師は、結婚がゴールとは思っていません(箱崎)

箱崎:ペット予防医療センターで働いていらっしゃる先生の中で、女性の比率はどれぐらいですか?

松岡:ちょうど半分が女性で、そのまた半分がお母さんです。一旦、家庭に入った方が現場に戻りやすい環境を作ろうと、意識的に制度設計をしてきました。中学生以下のお子さんをお持ちの方を対象にした「子育て支援給付金制度」なども、その一例です。

箱崎:女性獣医師ネットワークのメンバーの方々と話していて感じるのは、専業主婦になった獣医さんの多くが臨床現場に戻りたいと思っているんですね。ただ、今の自分は臨床の最前線にいた20代の自分じゃないから、あの過酷な現場には戻れないとも思っている。もう一度学び直してもっとスキルを積まなければ到底、現場復帰は無理だと悲観している。そして諦めちゃう人が圧倒的に多いんです。

松岡:みなさん大変まじめですよね。

箱崎:そうなんです。勉強熱心でまじめです。ただ裏を返すと、大学を出て勤務医になって臨床をやってきた経験しかないので、それ以外の働き方があるということをご存じないんですね。

さっきも言いましたが、基本、獣医師は病気を治したいと思っている。だから、医療設備が簡素な予防医療系の診療所―ペットショップに併設されている病院などを無意識のうちに軽視する傾向があります。また、飼い主さんとのコミュニケーションに苦手意識を持っている人もいたりします。年代によって感覚は異なり、たとえば30代前後の先生は既成概念に捕らわれずに人生設計を考えている人が目立ちます。結婚がゴールとは思っていません。家庭と仕事の両立を前提に、雇用環境の整った職場を探しています。

私や松岡さんがやっている予防医療の領域には、今後、職業意識の高い女性獣医師がたくさん携わる可能性があると思うんです。今はまだ、獣医療領域における予防医療の認知度が低いだけですよね。

松岡:ペット予防医療センターは、首都圏を中心に各地に診療所を開いていますから、自宅と保育所から近いところを選んでお勤めいただくことができます。診察時間も原則10時~19時ですが、保育園のお迎え時間に合わせて短縮も可能ですし、曜日も選べます。

完全予約制だからシフトが弾力的に組める。残業もほとんどありません(松岡)

予防医療の世界では、じつは40代、50代の女性の獣医師さんが信頼されるんです(箱崎)

箱崎:飼い主さんの話にじっくり耳を傾けるという予防医療の世界では、じつは40代、50代の女性の獣医師さんが信頼されたりもするんですよね。

松岡:まったくそのとおりで、私たちの診療所でも子育てが一段落した先生が活躍していらっしゃいます。

箱崎:どこの動物病院を見ても、勤務医は若い人ばかり。そこに業界的な問題があると思っています。臨床医のキャリアプランが確定していないんです。若い頃は私も、「獣医師は国家資格なんだから女でも食いっぱぐれないだろう」ぐらいに思っていました。でも、ふとまわりを見ると30歳を過ぎた女性の先生はひとりもいません。先輩たちに相談すると、

「結局、臨床は女には無理なんだよ」
「公務員試験を受けて公務員になれば、家庭と両立できるよ」

 と言われて凄いショックを受けました。

いまでもこの状況は変わっていません。私のところには獣医科大学の女子学生さんから、

「大学の教員に臨床に行きたいと言ったら、先がないから考えなさいと止められた」

という相談がよく来ます。「大丈夫、そんなことないよ」と言ってあげられないのが残念ですが、でも、少しずつ状況は変わってきていると思います。

松岡:少子高齢時代に女性の活躍する場の提供は急務です。幸い、保育園の整備が徐々に進んできているので、子育てに合わせた働き方ができる職場環境さえ整えば、安心して働けるようになるはずなんです。完全予約制の強みは働く側にも大きいんですね。なによりシフトが弾力的に組める。残業もほとんどありません。私は一度は家庭に入った獣医師の方々に「こんなふうに働ける場所もあるんだよ」という具体的なメッセージを届けたいと思って、この診療所を始めました。

箱崎:女性獣医師ネットワークのメンバーの方々と話していて感じるのは、女性は何よりも仕事にやりがいを求めているんです。お金や生活のために働くというよりは、自分が自分らしくあるために仕事をしたいという思いですね。臨床の現場は過酷だから、もう一度あそこに戻るのはためらわれるけど、動物と飼い主さんに接したい、そこに獣医師としての充足を見出したい―というアンビバレントな感情です。

その点、飼い主さんとのコミュニケーションにフォーカスした予防医療の病院は、満足度が高いんじゃないかと思います。診察時間を切り詰めて数でこなす病院とは違って、話す時間をしっかり確保できる。その中で飼い主さんに感謝される仕事って、良い仕事ですよね。

松岡:人から頼りにされるのは、先生の王道じゃないですか。けっしてつまらない仕事ではないんです。

独立志向の先生には資金面のバックアップも。総合病院勤務もできます(松岡)

今後も0.5次診療の普及のために、力を合わせてかんばっていきたいですね(箱崎)

箱崎:ペット予防医療センターでは、不妊・去勢手術はどんなふうに位置づけているんでしょうか?

松岡:不妊・去勢も予防医療の範疇だと捉えています。ただ、大部分の診療所には手術室がありませんので、手術を希望される飼い主さんには1次診療に対応した総合病院をご案内しています。現在、埼玉と神奈川と大阪には自社経営の総合病院がありますので、周辺の診療所で受け付けたワンちゃん、ネコちゃんは、希望を伺ったうえでそちらに移送してオペをします。また、本格的な治療が必要な場合も総合病院で対応しています。

箱崎:私も同じです。夫が獣医師で近くに1次診療病院を開いていますので、外科対応はそちらに行ってもらっています。ほとんどの方が、治療が済むとまた戻っていらっしゃいます。0.5次診療と1次診療の棲み分けは、じつはうまくいくものですね。

松岡:予防医療はやりがいのある領域ですが、ペット予防医療センターで働く獣医師の中には、いずれ独立開業したいと考えている方もいらっしゃいます。そういった先生には、総合病院で勤務する時間を増やしてスキルアップを図っていただきます。やがて機が熟したら独立開業するもよし。その際には話し合いのうえで資金面を含めたバックアップを検討します。

またペット予防医療センターに留まって、今後、増やしていく予定の総合病院の院長になっていただくもよし。5年後には犬の頭数が今の3割も減るといわれている昨今、動物病院を自己負担で開業するのは大変なリスクです。であれば経営面は任せて臨床に自己実現の場を求めるというのも、現実的な選択ではないでしょうか。そんなふうに、先生方のライフプランに合った選択肢をなるべくたくさん用意しているつもりです。

箱崎:今後も0.5次診療の普及のために、かんばっていきたいですね。

松岡:こちらこそ、よろしくお願いします。

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